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小暮太郎さん

12「晴耕雨医の村から」小暮太郎さん

「晴耕雨医の村から」

ジャンル:エッセイ 発行:2018年3月

「晴耕雨医の村から」

第21回自費出版文化賞エッセー部門入選

古本の香り、美人画、漱石の俳句、ゴッホのフィギュア、プライベート・プレス、英訳と和訳…普段見過ごしてしまいそうなことが深堀りされ、読めば新しい知識との出会いに胸が高鳴る。著者の書物蒐集趣味が嵩じて、文字組から製本まで自ら手掛けようと始めたプロジェクト。『埼玉県医師会報誌』『深谷寄居医師会報』に掲載された作品から自選し加筆修正した。

完全データ入稿でしたが、プロのデザイナーの提案で精度が上がりました。完成品を手に取ったときは…感無量でした。

Parade Books 自費出版を決意されたキッカケを教えてください。
著者 最初は自費出版の予定はありませんでした。以前ほかの出版社に相談したところ、出版社のフォーマットでレイアウトを決められちゃうと知り、自分のやりたいようにできないなと思ったんです。「それなら自分でつくろう」と思ってたときに、たまたま目黒川沿いの店にKAKUBOOK(パレードブックス発行の無料小冊子)が置いてあるのを見つけ、パレードブックスが近所にあることを知ったんです。だいぶあとになってホームページを確認したら“完全データ入稿”という方法もあることを知り、「これならできそうだ」と、また自費出版を考え始めました。
Parade Books ということは、ホームページをご覧になってから制作を始めたんですか?
著者 いや、そうではないです。最初は自分でつくるつもりでした。1年半ほどかけて暇なときにInDesignでつくっていって…キンコーズあたりでオンデマンド印刷をしようと考えていました。でもどうせやるんだったら画像もきれいなオフセット印刷がいいなと思いはじめ、KAKUBOOKのことを思い出して相談してみようとホームページを開いたんです。
Parade Books そういう流れがあったんですね。自分でつくれる人つくれない人、パレードブックスはいろんな人に柔軟な対応が自慢です。ところで、執筆したキッカケって何ですか?
著者 2011年頃から自分が持ってるいろんなネタを書き残したいなというのがあって。とりあえず所属する医師会の情報誌に頑張って1年くらい毎月投稿してみようと考えたんです。それが書き始めるひとつのキッカケでした。数年してある程度まとまった数になった頃、当時お世話になっていた医師会の副会長が、「そろそろ製本してもいいんじゃないの?」って声をかけてくれて。それならその先生を含めて内輪の何人かにばらまくくらいのものはつくってもいいかなーと思って製本しようと考え始めたんです。それから医師会の知人や友人からは書店流通も勧められて。
Parade Books みなさまから求められて…
著者 ふふふ、そうそう。みんなが「流通しちゃえ~」って(笑)。
Parade Books いや、これは絶対本屋さんに並べる価値ありますよ。細かい点までとても丁寧に書かれていますが、原稿を書くときに気をつけていたことや大変だったことはありますか?
著者 締切の関係で、原稿を書くときって実際に誌に載る2ヶ月前なので、2ヶ月後の状況を予想しなきゃいけないっていうことがあります。そのあたりに予定されているイベント、たとえばロケットが打ち上げられるとか、そういうのがあれば、それに合うような内容を考えたり。だから、今書きたいんだけど掲載されるときには適さないなっていうのはボツにしたり。あとは載るのが医師会誌だから、気分転換してもらえるように、なるべく医療から外れたテーマにしていますね。診療に関係する場合も患者さんが特定できないように気をつけてはいます。
Parade Books 短編のエッセイ集なのに自然な流れで読めたのですが、そのあたりは何か意識されたんでしょうか?
著者 順番はこだわりました。僕はエッセイであっても基本的に本は1ページ目から順番に読むのが普通だと思っていたんだけど、前にほかの出版社の方の話を聞いたとき、その方はエッセイとかそういうものは飛ばし読みをするって言うんですよね。題を見て、題を選んで読むと。その方は、どちらかというと、順番よりも目次のタイトルを際立たせるほうがいいということを言っていたんだけど、僕はそれがしっくりこなくて。僕としては、最初から順番に読むことで作者のこともわかっていくのがいいんじゃないかと。男子高出身で、実は医者だった、実は帰国子女だった…そんな流れで読んでるうちに、僕がどういう人かわかるような並びにしてみたんです。
Parade Books たしかに、読みやすかったですし、しっくりきました。データは独学でつくられたと思うんですけど、大変じゃなかったですか?
著者 編集に関しては、もともと私家版出版・プライベートプレスのことを本の蒐集のなかで結構勉強していたので、そういう人たちがどういうことに苦労していたかを前もってだいたいわかっていたんですよ。結局は構成が一番の問題だったりとか、組版のデザインで苦労したりとか、そういう人たちのことをそれこそ絨毯爆撃的にしらべて、日本エディターズスクールが出している書籍を読み込んだり、校正のルールとかも色々調べたり。InDesignそのものに関しては以前からちょこちょこ遊び半分でやってたんで、何となく使い方はわかってたけど、実際ちゃんとしたフォーマットでつくって出版までということになるとまた細かく調べなくちゃならなくて。デザイン関係の本とか、InDesignの使い方の本も最近はたくさんあるので、そういうのを見ながらやってました。
あとは、プライベートプレスの人たちっていうのは、自分のこだわりとか、出版に関しておちゃめな部分っていうのを表すところがあるんで、僕もおちゃめな仕掛けとか、よくよく見れば面白いじゃないっていうものをうまく入れたいなって。そういうのを考えながらやってみたんですけどね。
Parade Books いやもう、おちゃめが多すぎです(笑)。本のあらゆるところに散りばめられているので。
著者 どうせつくるなら、入れられるもの全部入れちゃおうかなって。ちょっとやりすぎちゃったかもしれない(笑)。あとは、1回読み終わった段階で、また前のページをめくりたくなるようなネタを仕込んでみたり。それで後半にネタばらし的なものを入れていったりしました。
Parade Books 1話1話は短いのに、情報が本当に奥深いので結構辞書的に読んだりもしてます、私(笑)。
著者 小さなことでもチェックしていくと、そこから孫引き孫引きで意外と面白い話が裏に隠れていることがあって。僕の場合、英語と日本語で全部検索しちゃうんで、情報量が多すぎて処理するのに苦労した時期があったけど、取捨選択するのが上手くなると結構精度の高い情報を手に入れることができるんですよね。だから常にそういうつもりでポンと何かお題を提示されたら、それに関係するものをどんどん絨毯爆撃的に調べて、そこから「これはこうじゃないか」と考えていくのが面白いんですよね。そういう考え方をみんなもしていただくと面白いんじゃないかと思います。
Parade Books パレードブックスのサービスはいかがでしたか?
著者 やっぱりデザイナー目線の精度は高いと思いましたね。指摘を受けて、実際自分で組み直して比較してみると、やっぱりプロのデザイナーの言うとおりだなーというのが多々あって。一人でサクサクいったところもあるけど、組版のところでも自分が気づかないズレやルールブック通りじゃない組み方もあったりとか。「こっちのほうが読みやすいよ」って言われて「なるほどな」って。あと、細かくレイアウトをそろえるとか、語句をそろえるとか、ものを統一させるってことに対する姿勢がたいへん勉強になりました。表紙デザインで深谷ねぎを表現したいと相談したらタテスジが入った紙を提案いただけたのも良かった。いろいろ楽しかったです。
Parade Books ありがとうございます。費用面はどうでしたか?
著者 ちゃんとしたオフセット印刷の上製本が1,000部で、さらに表紙やカラーページの色校正もして…そういう意味では妥当だと思います。
Parade Books 完成品を手に取ったときの感想を聞かせてください。
著者 やっぱり感無量ですよね。最初は全然イメージがわかなくて、どんなもんかなー…って思ってましたけど。出版後は、外来で患者さんから「読んだよ」とか「面白いね」とか言ってもらって。あと僕が帰国子女ってこととか東京から通ってるってことを知らない方や、バイクに乗ってたってことも知らない方もいたんで、そういう意味では、かかりつけの患者さんにとっても新鮮な一面を見せられたってところがあります。外来ではいつも「太郎先生、太郎先生」って呼ばれてるけど、またもうちょっと距離が近くなったかなって。中には「こんな変な話したらネタにされちゃうね」っていう人もいるけど「大丈夫、生きてる人は書きませんから」って安心させています(笑)。
Parade Books 私も病院の先生がこんな本を出していたら、すごく身近に感じて話しやすいと思います!
著者 出版でそんなに大きな反響を期待しているわけではなかったけど、意外と患者さんのほうが喜んでるというのを感じられたっていうのがあったし、医師会の中でも普段は会わないような他県の医師会の先生たちからも声がかかったりとかね。「ああ意外と興味持ってくれてるんだ」というのは嬉しい驚きでしたね。
Parade Books 意外な人からのお声掛けは嬉しいですね。
著者 そうそう、ひとつこの本がキッカケで、昔一緒に仕事してた看護師さんが、全然どこに行ってるのかも知らなかったのに、向こうから連絡があったんですよ。浜松あたりのどこかの本屋さんで偶然この本を見て、僕と同じ名前だなと思って中を見たら僕だったってことで。そこからFacebookで探し当てて、「○○ですけど覚えてますか?」「おー!覚えてる覚えてる!」って感じでつながったのは嬉しかったです。
Parade Books それはすごい。何だか私まで嬉しいです!寄稿文はまだまだこれからも書かれますよね。ずばり、次回作というお考えは?
著者 2~3年すればある程度まとまった数がそろうと思うんで、それを取捨選択して一冊にまとめられそうだったら、またやってみたいかな。そのときにまたどんなおちゃめを入れるかなって。ネタを考えなきゃいけないけど(笑)。
Parade Books また違うことをしていかないと(笑)。次回作もぜひパレードブックスで!お声掛けお待ちしています!

小暮太郎(こぐれ たろう)
アメリカ、フロリダ州マイアミ生まれ。
東京慈恵会医科大学卒業。医師。東京在住。

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